ジャニーズの性被害が話題です。
これについて、様々な観点から色んな指摘が錯綜しています。シンプルに被害者を憂う声、ジャニーズに対する怒りの声、活動家や政治家の声、海外からの声、憶測による野次馬の声やバッシングなどなど。
ここでは一旦、そういった感情は置いておいて、現実問題何が起きているのか解説していきます。
ジャニー氏性加害の歴史

実は性加害問題自体は、今よりだいぶ前に告発されていました。どのような流れで今に至るのか、みていきましょう。
暴露本
まず事の発端は20年前に遡ります。

実は過去にジャニー喜多川氏の性加害についての暴露本が出されていました。
これに対してジャニーズ事務所側は週刊文春を名誉毀損で訴えました。この裁判では事務所側が勝訴しています。その際、録音や映像のような明確な証拠は出されず。証言のみの裁判でした。
裁判によりジャニー氏の反論が棄却
しかし、その後2003年の裁判で、ジャニー氏の証言が棄却されることになります。ジャニー氏が自ら「彼らが嘘の証言をしていると明確には言えない」と語った事がその判決に繋がったと言えます。
このことから、裁判所が性加害を認めたと語られることも多いですが、セクハラした確固たる証拠が見つかったのではなく、あくまで「少年の証言」に対する具体的な反論ができていないということの結果であることに注意です。
判決も、賠償額880万円から120万円に減額という処置に留まり、出版社への名誉毀損自体は認められています。また、その後ジャニー氏が納得できないと上告しましたが、それが棄却されたという流れがあることも忘れてはいけません。

メディアの黙殺
この判決に対して少々都合が悪かったのか、当時ほとんどのメディアはこのことを報じることはしませんでした。このことが、現在の「メディアの責任」という批判に繋がっています。
その後も、テレビ業界とジャニーズ事務所の関係は変わらず続き、国民のほとんどが裁判の事実を知ることもなく、ついにジャニー氏が死去してしまいます。
海外の報道で流れが一転
しばらく、ジャニー氏が亡くなったことを悲しむムードに包まれていましたが、英BBCが性的虐待疑惑を報道したことで流れが変わります。
元ジャニーズJr.のカウアン・オカモト氏による性被害告白により、ジャニー氏を責める声がネットで大きくなり、ついにNHKがジャニー喜多川氏の性的虐待を報じます。

その後、藤島ジュリー景子社長による謝罪会見、被害者の会の設立、ジャニーズ事務所の正式な会見などを経て、現在に至ります。
抑えるべき重要なポイント

加害者はすでにこの世にいない
まず問題を複雑にしているのが、ジャニー氏がすでに亡くなっているという事実です。
ジャニー氏が性加害をしていたにしても、その責任は事務所が取るのか、新しい社長が取るのか、責任の取り方はどうするのか。ジャニーズへのバッシングが続く中、誠意ある対応を求められる、非常に難しい局面になっていると感じます。
被害者の会からは、「今後ジャニーズ事務所が利益の一部を被害者の会に寄付し続けてほしい」「被害者の時効をなくすべき」といった意見が出ていますが、ジャニー氏自体はすでにいない以上、やはりどこまで対応するかは難しいです。
一応事務所側からは、証拠の提示がなくても証言に説得力があれば、法的根拠なしに補償をすると語られています。しかし一方で、事務所内部の責任は一切なかったのか、一度体制を改めて外部の監査を設けるべきなのではないかという批判もありますが、これに対しては十分に対応できているとは言えない状況です。
証拠は未だ提出されていない
また、我々国民が冷静にならないといけないポイントがあります。
- ジャニー氏は性加害を認めていない
- 確実な証拠はなく証言のみである
という点です。こういった問題はどうしても被害者が可哀想という感情が暴走しがちです。
証拠が証言だけであり、過去の裁判に関してもジャニー氏が上告している以上「絶対に加害をしていた」とは言えません。もちろん被害者からすれば確実な証拠があっても提出しづらいものです。辛い経験の中で、そのような証拠を得ることも難しいです。
しかしながら、日本が法治国家である以上、「でっちあげ」「冤罪」には敏感にならないといけません。だからこそ、私たち部外者は「許せない」という感情だけに任せて誰かを責めるべきではないと感じます。
ただし一方で、藤島ジュリー景子社長は性加害があったことを認めています。また、新社長である東山氏は確実な証拠がなくとも補償をすると語っています。以上を踏まえて冷静にこのニュースを見ていく必要があります。
ジャニーズ事務所という名称
3つ目のポイントは、ジャニーズ事務所という名称についてです。
ジャニーズ事務所側は今後も「ジャニーズ」という名前を使い、活動を行うと明言しており、これが波紋を呼んでいます。
「ジャニー」という問題のある名前を使用することに対して「本当に反省しているのか」という声がある一方で、日本にとって「ジャニーズ」という名前のブランドの大きさは計り知れません。その辺を天秤にかけた結果の選択だと思いますから、これが吉と出るか凶と出るかは誰にもわかりません。
旧統一教会のように、名称だけ変更されて中身は変わらず、むしろ実態がわからなくなるという可能性も0ではない以上。やはり冷静に見ていく必要があります。これに関しては後ほど話す「解散を命じることができない」という法整備にも問題があるかもしれません。
※10/2追記
新たな会見にて、社名をSMILE-UP.(スマイルアップ)に変更し、同時に一族経営から脱却した新会社を設立し将来的にSMILE-UP.は廃業させると語られたようです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/92f6cad0dd13c6636de224fc98467458920a31d4
メディアの責任
4つ目が「メディアの責任」
ジャニー氏とジャニーズ事務所ばかりが責められていますが、そもそも裁判があった時メディアがちゃんと報じていれば、ジャニー氏の誠実な対応やジャニーズの健全化にもっと早く繋がっていたのではないかという話もあります。
性加害があったなら、ジャニー氏が悪いのは当然ですが、芸能業界と権力の暴走は切っても切り離せないところがあります。そういった被害を未然に防ぐためにも、正確な情報を発信するのがメディアの責任ではないかと感じます。
今回ネットではしきりにそのような指摘が繰り返されていますが、やはりテレビ局の報じるジャニーズ問題はどこか他人事のように感じます。
法整備が不十分
そして最後が法整備についてです。
もし女性アイドルが被害者であれば、もっと大ごとになり警察も動いていたかもしれません。そうならない理由は、つい最近まで強姦罪に男性被害者が認められなかったことと無関係ではないと思います。
この件に限らず、日本では男性被害者・女性加害者というものが軽んじられる傾向にあります。男性被害者は自己責任、女性加害者はストレスにより情状酌量の余地ありと世間的にみられやすく、このようなジェンダーバイアスに基づく感情的な見方が、法律や裁判にも影響している可能性が大いにあります。
また、今回の事件と無関係ではないのが、児童への虐待です(ジャニー氏の性加害は主に少年に限定されていた)。しかし現在の児童虐待防止法の認定が、「親からの虐待」のみに限定されていることが問題視されています。
本当に現行の法律で、今後ジャニー氏のような性加害事件の再発を防止するのには十分なのか、考える必要があります。
感情的にならず、今後の事務所の対応を見ていくべき

以上を踏まえて、私たち一般人はこの問題をどう受け止めればいいか。
一つは感情的になりすぎず、過剰なバッシングを避けることでしょう。これが行き過ぎれば、テラスハウス事件やりゅうちぇる氏の自殺事件のように、悲しい結果を生み出すことになりかねません。
もう一つはメディアに対する見方でしょう。
メディアも権力側ですので、私たち一般人にできることはありませんが、偏った報道や報道しない自由があるという前提で、メディアを過信しすぎないように冷静に世の中を見ていくことは求められていると思います。
この事件は許すべきではありません。しかし本当に重要なのは「ジャニー氏」と「ジャニーズ事務所」を責めることの先にある「この先どうやって同じような被害を防ぐか」です。
当事者でない私たち一般人には加害者へのバッシングよりも、むしろ身近な被害を防ぐためにどうすればいいのか考えることが大事なのではないかと思います。